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イエレン証言

r.matsushita | 2017/07/14

 今週の最大のイベントはアメリカ議会におけるイエレン証言だろうと思っていたのですが、FRBのトップが投機筋を喜ばすような不用意な発言をするわけもなく(そんなことは言えれんという訳で)市場の想定に沿ったややハト派のトーンか、という程度で日本株高になるような影響は今のところないようです。

 かと言って下げる訳でもなく、3月期決算会社の第1四半期決算発表を見ながらやや強い動きになるのではないか、といった雰囲気になっています。

 アメリカの次の金利引き上げは12月、資産圧縮は秋から緩やかに、しかしいずれもインフレ率の推移、景気の動向、金融市場の状況を見ながら慎重に事を進める、つまりは投機筋にとっては面白くもない政策実施になる、ということなのでしょう。

 日本株は、現在のような低ボラティリティ状態がどこまで続くのか?企業業績の向上を受けて一段高があるとして、さてその後秋に向けてどうなるのか?といったところが考えどころなのでしょう。

 日本株が波乱するとすればほぼ確実に海外要因でという気もしますから、例えばFRBがどんなに慎重に金融政策を実施するとしても、その他の波乱要因が急浮上して株式市場、債券市場にインパクトを与えて相場波乱(つまりは急落)につながる、という図式でしょうから、さて、そうした波乱要因として考えられるのは何か?ということに頭が行きます。

 このままずっと低ボラティリティで世界中の株価が順調に上昇するとも思えませんので、いろいろなリスク要因について考えておくことは意味のあることなのでしょう。かつて1987年の秋は、米独の金融政策の食い違いが波乱の一因だったと考えられています。

2013年にキプロスで起きたこと
 預金封鎖などという言葉は今のわが国ではほとんど死語ですが、今から70年ほど前の1946年2月16日にはわが国で実施されたことがある劇薬政策です。(預金封鎖は事前に情報が知れ渡ってしまっては効果が薄くなってしまいますので「突然」発表されて実施されます。)

 直近では、2013年3月16日に実施されたキプロス共和国の例があります。キプロスという国は地理的にも歴史的にもギリシャに近く、キプロスの銀行は地中海のオフショア金融センターとして多額の外資(その中心はロシア富裕層のものだったと言われています)を預かって、その資金でギリシャ国債に投資していました。そのギリシャが財政危機に陥って国債価格が大暴落し、キプロスの銀行は大打撃を受けます。これが、同国の預金封鎖の原因となったのです。

以下起きたことを簡単に時系列で記します。

・2013年3月15日(金曜日):ユーロ圏から100億ユーロの支援を受けることが決定。(条件は、キプロスが銀行預金への課税、10万ユーロ以下の預金者に6.75%、10万ユーロ超の預金者には9.9%の預金税を課すという内容を実施するということでした。)

・翌、3月16日(土曜日):預金封鎖を発表。(発表日が土曜日=休日というところがミソです。休日ですから、預金者は銀行に行って預金を引き出す=紙幣を手に入れることができません。)

・2013年3月19日(火曜日):キプロス議会、上記の銀行預金への課税法案を賛成ゼロで否決。(民主国家の議会で預金封鎖などという民意を踏みにじるような決議が通るはずがない、ということでしょう。これはわが国でも同じだと思います。)

・2013年 3月25日(月曜日):最終条件が決定、キプロス第2位の銀行を破たん処理して第1位のキプロス銀行に集約、10万ユーロ以下の預金は全額保護、10万ユーロ超の預金は、その内の47.5%をキプロス銀行の株券に転換、残りは税金として没収、という内容で、明らかにキプロス国民のダメージを軽減する内容でした。(逆に、多額の預金(資産)を保有していたロシアの富裕層には大打撃で、よくロシアとキプロスが戦争にならなかったものです。)

・2013年3月28日(木曜日):銀行営業再開。(銀行業務は正常化しましたが、引出制限が設けられました。)銀行の営業が停止されていたのが8営業日で、その間も国民は生活して現金は必要だったはずですから本当に困ったと思いますね。当座の現金(生活費1か月分とかいった規模の現金)は家庭内に持っておいた方がいいという教訓でしょうか。

 キプロスは通貨としてユーロを採用していました(います)から、国の通貨が信用を失って問題が生じる、といったタイプの危機が起きた訳ではありません。銀行の財務問題が預金封鎖につながったということです。わが国の場合、危機が起きるとすれば通貨である日本円が信用を失うという形になって資本の流出を招き、情勢によっては預金封鎖に至るということが考えられることになります。

わが国が選んでいる(選ぼうとしている)道
 国のバランスシートが債務超過の状態であっても通貨への信認が失われなければ(つまり通貨価値が暴落しないのであれば)別に何の問題もありませんが、信認を維持するためにその債務超過を多少改善しなければならないとなったとしますと、やり方はともかくとして国民の資産を使って債務超過分を改善する、ということをせざるを得ないわけですから、過去において預金課税(資産課税)の形で国の財務状態を正常化する、というやり方が数多く行われて来たのは当然のことなのでしょう。あるいは、インフレによる債務者利得によって強引な政策をしないで済んで来たことも多数あったと思います。(インフレで調整というやり方のもっとも過激なものが「ハイパーインフレーショ=通貨価値の大幅減額」です。もちろん、「ハイパーインフレーション」は政策とは呼べません。)

 現時点でわが国がこうした劇薬政策を必要としているということは全くありませんが、政府の債務がこれからさらに拡大して行けば、危機感が強まることがないとも言えません。当然さまざまなやり方で将来の危機回避の手立てが講じられているわけですが、現状でわが国がやろうとしている方策という観点からしますと、だいたい以下のような像を描いているのではないかという気がします。

・成長政策:経済規模が拡大すれば政府債務の経済規模に対する割合が低下しますし、税収が増えて借金の負担(利払いと元本返済)は相対的に楽になりますからそれでOKというわけですが、世の中だいたいにおいて「拡大均衡」で問題を解決、というわけに行かないのが常ですから、うまく行きますかどうか。(経済規模の拡大を目指すべき、という点はすべての国民が賛成すべき方向ですが、それで借金の悪影響を減らそうというのはちょっと虫が良すぎる気がします。借金で先食いした分に対する反省がなさすぎますよね。)

・金融抑圧政策(インフレでちょっとずつ調整しようという道):実質金利をマイナスにして少しずつ債務の実質価値を減らす=債務を減らす、という道を辿ろうということです。このためには、ある程度高い(2%くらい?)インフレ率と超低金利(ゼロに限りなく近い国債金利)の両立が必要ですが、ややもするとデフレ+超低金利=実質金利高、となってしまうわけで、コントロールはそれほど簡単ではないように思います。(ただし、今のところうまく行きかけていますね。)

・資産課税の多少の強化:例えば、日本国民は今だいたい950兆円くらいの現預金を持っています。今突然、現預金に100%の税金を課して政府の収入にしてしまえば、国の借金はすべてなくなり、国債はすべて即時繰り上げ償還できます。例えば、1000万円の現預金と1000万円の国債を持っている個人がいるとして、この課税がなされると1000万円の現預金はゼロになり、1000万円の国債は償還されて1000万円の現預金になるというわけです。差し引き1000万円の損ですから、実質的に現預金+国債という金融資産に対して50%の資産課税がされた勘定です。(金額にもちろんよりますが、相続税の最高税率は55%ですから、富裕層はどの道この程度の資産課税はされてしまう、ということかもしれませんね。)

 こんなことをすれば世の中は大混乱になりますし、そもそもこんな法案が国会を通るはずもありません。ということで、こういう劇薬政策は今の日本では無理ですが、相続税率を少し上げる、とか、出国税を創設する、といった資産課税の多少の強化は現実的ですし、すでに実行されています。(さらには、昨年からは、高額所得者に対して財産債務調書の提出が義務付けられています。)

どう対処すべきか?
 個人個人の立場(露骨に言ってしまえば持っている財産の規模)によって考えることはいろいろでしょうが、個人投資者としてみればだいたい以下のようなことなのだろうと思います。

1. 預金封鎖だのハイパーインフレーションだのといったバカげた状態にわが国がならないようにわが国のリーダーたちがきちんと仕事をすることを「ひたすら」願う。自由で民主的な社会、資本主義経済を前提に、少なくともわが国にバカげた状態をもたらない程度の実務能力と、日本国民の財産生命を守るという意思を明確に持った人物を国会に送り出すためによく考えて投票する。

2. バカげた経済・社会状態にならないことを前提に、経済的な価値を生み出すもっとも大きな源泉である株式会社の株主権を信頼して金融資産の一定割合を株式に投じる。投資先の会社の経営者に対して株主利益に貢献するよう最大限の圧力を加える。(それができない経営者を呪う、というのでもいいかもしれません。)

3. 金融機関を信頼する。しかし、銀行預金は一行当たり元本1000万円+利息分の範囲内の収めることを原則とする。(決済性預金は別です。)国債への投資も信頼する。

4. いざという時のために、家庭の中に1か月〜3か月分くらいの現金を持っておく。(あまりにも多額の現金を家庭内に持つことはもちろん避けるべき危険なことです。)

5. わが身と家族を守るため、という強い意識を持って、世の中の情勢変化を敏感に感じ取る体勢を常に維持する。

 こんなところでしょうか。

キャピタル・フライト
 日本語では「資本逃避」と訳されることばで、ある国から資本が海外に逃げてしまう、多くの場合大量にかつ急激に、という状況を示しています。膨大な資本が一気に国外に流出するというニュアンスで、ふつうの状態における対外投資といったこととは別のこととして扱われることが多いようです。逃げ出す資本は、その国の国内資本もありますし、その国に海外から流入した資本もあります。

 現在の日本で、キャピタル・フライト⇒金融危機、が起きる恐れは限りなく小さいという感じはしますし、過去において日本からの膨大なキャピタル・フライトが起きた、ということもなかったように思うのですが、海外の事例を見ればけっこうな頻度でキャピタル・フライト⇒金融危機⇒経済混乱、は起きているようです。(例:リーマンショック後のアイスランド)

 キャピタル・フライトは、資本が、その国の通貨価値の下落による損失を防ごうとして逃げ出すということによって起きることです。厄介なのは、通貨価値が下落するのを嫌がって逃避する資金の流出そのものが、その通貨の価値を下落させてしまう、ということです。

 つまりは、キャピタル・フライトが起こりそうだ、となれば、その状況は投機筋にとっては「絶好の獲物」ということになって、投機筋が嵩に掛かって売り乗せて来る、というわけで、その国の金融市場、経済は大混乱に陥ってしまいます。

 キャピタル・フライトが起きるような情勢にしてしまった、という意味ではその国の政治・経済・社会・国民の自業自得とも言えるのですが、経済・金融情勢はいろいろな要因で変わるわけですから、時と場合によっては、その国にあまり落ち度がなくてもキャピタル・フライトの懸念を引き起こすようなこともありえるでしょう。

 多少困難な局面になってもキャピタル・フライトを引き起こさないように、あるいは、キャピタル・フライトが起きてもすぐに対応できるようにしよう、ということで様々な対策が打たれているのが普通です。

 わが国について見てみますと、日本円が常に信任(信用)されていれば問題は起きにくいのですが、以下のような対応策が用意されていれば、キャピタル・フライトによる混乱を未然に防ぐことができるだろうと思います。

1. 十分な外貨準備と対外純資産を保有していること。これは今の日本は充足しているでしょう。十分な外貨準備を持っていれば、大量の円売りに対して買い向かうことができますし、対外純資産を元にして海外から資金を一時的に借りるための信用を高めることができます。

2. 資本の海外流出防止策を講じること。この点については、わが国では2015年から出国税が課せられるようになっており、以前よりは資本流出の恐れが減ったと思います。

3. 投機筋の攻撃をかわす策を講じること。ソロスによるポンド売りで危機に陥った1992年のイギリスのようにならないための方策を講じる、ということですが、資本取引が自由化されている状況で投機筋の動きを封じるというのは難しいことです。現在、わが国の国債保有における外国人の比率は高くないので当面は大丈夫と言えると思いますが、投機筋の売りによる円危機が起きないように気を付けるというのは重要なことだと思います。

4. 柔軟な経済構造を持つこと。例えば、投機筋の円売りで大幅な円安になった、という場合に、それによって日本の輸出企業が競争力を大幅に高める、という状況になっていれば、円安⇒大幅な貿易収支黒字、となって、円安には限度がある、となるでしょう。

5. 少なくとも今現在は基軸通貨である米ドルの発行国である米国との良好な関係を維持すること。

 全体として、今のわが国はキャピタル・フライトに悩まされるという状況にはない、と言えるように思います。こうした状況を維持することが経済の拡大と企業収益の向上、株価の持続的な上昇にとって重要ですから、ぜひこの状況を維持してほしいものです。

平成29年7月14日
証券アナリスト
松下律

コメント(9)

ユーザーコメント一覧

<154854>  この国、日本が危機を迎えても問題ない

中村歌次郎 | 2017-7-14 8:25

何故なら本当の危機はアメリカにあり
全てはアメリカがどうなるか?に掛かっているのだ

<154856>  無題

ギンジ | 2017-7-14 9:31

3連休前なので早々と下がりだした、売り方の私としては少し嬉しいです。

<154859>  2万超えのOPSQ値

通行人 | 2017-7-14 10:18

2万越えのオプションSQ値。これが、上値抵抗とならないことを願うが…。
 
ところで、熱い東京、というよりも、日本全土。北海道が、沖縄よりも暑い日。とっくに、日本は、亜熱帯か。

それにしても、松下さんの「イエレン証言」という題のブログコメントは、詳しくて、長くて、いいね。読みごたえあり。

<154860>  様子見

総社 | 2017-7-14 10:40

高い所は売り
押し目買いはしない
7月下旬に異変があるかもしれないらしいから

<154861>  膠着

古武羅 | 2017-7-14 12:08

イエレンさんの証言も終わったし、オプションSQも通過。
動かない…
一応、毎日値段は確認していますが、上がって欲しい銘柄が上がらず、落ちてきて欲しい銘柄は下がらない。
なので、最近は様子見です。
通勤電車でも人が減ってきたような気がするし、このまま夏休みに突入でしょうか?

<154862>  W12

マリン | 2017-7-14 12:21

映画、トランスポーター、がアウデイのイメージをイケテル車に変えた(個人の感想です)けど、確かにあのA8は正直欲しいと思わせます。6ℓW12とか4.2ℓV8とか、大排気量の高性能エンジン。今ではまだ、その存在をステイタス、あこがれの対象として観ていられるけど、環境問題、環境意識が高まる近い将来、ガソリンエンジンが迷惑な存在として扱われる日が来るんでしょうか。やはり車は、シリンダーでガスを爆発させて走るモノであってほしい。映画トラ3は、環境問題に絡んだ話で、環境問題をビジネスに利用しようとす、るクールで知的でビジネスマン風の悪役に立ち向かうのが、大排気量のA8をドライブするハ○(ジェイソン ステイサム)っていう所が何とも皮肉っぽく、かっこよくていい。やはり電気自動車では盛り上がらないハズ。高性能であることを、エンジンをかけた瞬間から伝えてくる排気音は大事です。大排気量の車が、反社会的なモノと認識される時代が来るとしたら、A8の中古車価格は暴落するハズ。俺にも買える日が来るかも。

<154863>  ファストリのおかげ

khc | 2017-7-14 12:28

朝方は先物売りにつり出された現物株の売りで
TOPIXコア30が9時半まで急落
9時半で先物売りが20080円で止まると
買い戻しでは高値20140円まで上昇
再度先物は20090円まで下げるが
コア30は下げない
日経平均はが先物に縛られて小動きの中、
ファストリの下げが加速してくれたおかげで
ゼロサムで決まる主力株が強くなり買われる展開
しかし、前引けの先物気配20110-20120レンジは9時と同じ
結局は先物で9時に付けた水準に戻っただけ

<154864>  イエレン証言

サンダー | 2017-7-14 15:34

毎回イエレンさんには、市場は振り回さているような形です。出来高も抑えられ今日も、大引けにかけて急落、やっとの事でプラスを保つような始末です。

<154865>  アホやねん

ヘボ投資家 | 2017-7-14 16:12

公募の出光興産は万が一を考え両建てにした。
ところが外せません。もし、公募差し止めが認められ、中止となったら株価暴騰。
以前に経験していることであり、段階的に下がった株価は特買いから一挙に上がる。

金利も勿体ないしで、有利になるよう外すことにした。
2,700円を維持できるかの状況だったので2,713円で売り。
ところがジリ上げ。仕方なく2,727円で買い。逆を描いていたのに。下手でした。

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