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玉さまの阿古屋

西谷 祐紀子

2018/12/12 12:05

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現在では、坂東玉三郎しか演じることができないと言われる『阿古屋』。

かねてから、いつか観てみたいと思っていたのですが、先日、その機会に恵まれました。


この度の12月大歌舞伎では、若手の梅枝、児太郎のお二人も阿古屋に挑むとのこと。

玉三郎だけと言われてきたこの演目が、次の世代へ継承されようとしている…

玉さまの阿古屋があと何回上演されるのかわからない今、見逃すわけにはいきません。



ご存知の方もいるかと思いますが、阿古屋が登場する「壇浦兜軍記」のあらすじを簡単に。

「阿古屋」は平家の武将悪七兵衛景清の愛人である遊君。

平家滅亡後、行方をくらました景清の所在を知っているはずと、問注所に引き出されます。

指揮を執る重忠は、阿古屋に、拷問として、3つの楽器を演奏すること、「琴責め」を命じます。

言葉に嘘があるならば、調べに乱れが表れるだろうと。


阿古屋が弾くのは、琴、三味線、胡弓。

3つとも、全く乱れることなく、弾ききらなければならない。

これが難役とされる所以です。



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この日は、幸運にも、花道の真横のお席でした。

阿古屋は花道からの登場です!

さっと幕がひかれて、阿古屋が現れた瞬間、会場中から「わぁ〜!」というため息。

私の後ろの席の方も、思わず「わぁ、きれい、うわぁ〜」と繰り返しつぶやいていました。

孔雀の刺繍が浮き出るような俎板帯や色打掛など、花魁衣装の華やかなこと!

引き締まった、しかし、本当に美しく見惚れてしまうようなお顔を、まばたきもせずに、目に焼き付けました。


そして、三つの楽器の件へ。

歌舞伎役者でなくても、琴と三味線と胡弓、全てを弾くだけでも容易なことではありません。

楽器を奏でながら阿古屋という人物であること。

そのふたつを同時にやり、それをずっと継続させていくところに難しさがあると玉三郎自身がインタビューにこたえています。


ところで、皆様は「イヤホンガイド」は使う派ですか?

なんとなく、自分の五感だけで感じたい気もしてしまうのですが、この度はおとなしくイヤホンガイドを頼って観劇を致しました。


それによりますと、3つ目の胡弓で演奏された曲目は「鶴の巣篭」。

景清の子を懐妊している阿古屋が、巣で卵を温める親鳥と自分を重ね合わせ、ここでお腹の子共々殺されてしまうのか、生き延びてもこの子を育てていけるのか…

心の内にはそんな思いも忍ばせているとか。


こうした解説がないと、懐妊しているとは舞台を観ているだけではわからないので、私のような素人はやはり利用したほうがよいですね。



玉三郎さんは、あるテレビの対談で、常に引き際を考えている。

そして、それをあまり重要なこととは思っていない。

これまでに十分にやってきたし、あれ?あの人最近観ないわね、ぐらいの感じが良い、と話していました。


あの当代一の美しい女形も引退の日が来る…。

それも風のように舞台から突然さっといなくなってしまうかもしれない。

人間国宝の芸を、観られるうちにできるだけ瞼に焼き付けておきたい!

歌舞伎座に通う回数が増えそうです。