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ブログ:Onevoice

近頃ホッコリした話

中嶋 健吉

2019/05/23 07:59

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言わずと知れた話です。 沖縄の高校生が、叔父の葬儀に向かうための飛行機代6万円の入った財布を失くし、途方に暮れていた所、見かねた埼玉県の医師がその金額を手渡してくれた顛末です。  動転していたため、名前と連絡先を聞くことを失念、その為マスコミの力を借り、当人に行きつき返却できた話です。 当事者二人の人間性が心にしみる、近頃ホッコリした話です。 更に失くした財布も,後日金額がそのまま手付かずで見つかっています(NHKニュース)。  識者の解説では日本でしか起こりえない奇跡とのことでした。


これを聞いた家内が「それは違う、あくまで人の問題」と自分の経験から反発したものです。 前回に続き昔話になりますが暫くお付き合い下さい。


1973年から7年間のパリ勤務の間に、実は家内は2回のスリの被害にあっています。 そのうちの一回は、近所の行きつけの小児科医の待合室だったとのことで、多分同じ子供を抱えた母親の誰かだったのでしょう。 しかし詰問の仕様がありません。 その為少なからず人間不信に陥ったのですが、それを根本から覆すホッコリしたことが起こったのです。


家内と当時3歳の娘と、いつもの行きつけのレストランに行くため、地下鉄(メトロ)に乗り当該の駅に下車した際、家内がハンドバッグがない事に気付きます。 車内に忘れたか、搭乗した駅のベンチに忘れたか、それすら分かりません。 取りあえず駅員に対応を聞いたのですが、言葉の端節に諦めてくれとのニュアンスがあります。 今までの経験から思い知らされているので、結局傷心の気持ちを抱え食事も取らずアパートに帰りました。 バッグの中には財布以外に身分証明書、アパートの鍵が入っています。 防犯の為には一刻も早く錠の取り換えを行わなければなりません。 あれこれ考えると気の重い帰宅でした。


アパートに着いたとたん、我が娘と同じ年の娘を持つため、日頃から親しくしているスペイン人のアパート管理人が飛び出してきました。 言うには「マダム、サック(=バッグ)を失くさなかったか?」。 話では見知らぬスペイン人が訪ねてきて、彼が言うには駅のベンチでメトロを待っていたと所、少し離れたところにいた子供を抱いた、日本人とおぼしきカップルがバッグを残したまま電車に乗った。 慌ててバッグを手に呼び掛けたがそのまま電車は行ってしまった。 バッグを開けて確認したところ、身分証の住所が自分の家の近くだったので直来たとのことです。 直接返したいので家に来てほしいとのことでした。


その話を聞いた時の喜びは今でも覚えています。 家内も喜びと感動で涙ぐむ状況です。 早速管理人の車に乗って訪問したのですが、そのアパートは壁が剥げ落ちた、奇麗とは言えない低所得者向けのものでした。 しかし現れた当人は30歳には成っていない若者で、お腹の大きなこれも若い奥様と共に迎えてくれました。 両人とも世辞ではなく、本当に爽やかな笑顔のカップルでした。 

仕事は空港で、荷物の運搬に携わっているとのことでした。  お礼にと家内の財布に入っていた、そこそこの現金を渡そうとしたのですが、これも受け取ろうとしません。 これが日本のやり方だと説明し、やっと受け取ってもらったのですが、高学歴でもなく、決して裕福には見えない住まいに住む二人でしたが、その笑顔、立ち振る舞いから高い人間性が感じられ、今思い返してもホッコリする出来事でした。

(中嶋)