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何とか回復?

松下 律

2019/06/07 09:10

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タリフマン・ショック

 先週から今週にかけての相場下落は名付けるなら「タリフマン・ショック」といったところでしょうか。


 米国、メキシコ、カナダは「同じ国になったような」モノの流通体制を作ろうとして来たわけで、それを前提に多くの企業(日本の自動車メーカーもそうです)が北米で「ビジネス・エコシステム」を作り上げて来たということです。メキシコと米国の関係を山梨県と東京都のようにしよう、と。


 メキシコからの輸入品に関税を掛けるとなれば、山梨県から東京に持って来る物品に課税する、というようなものですから異例と言いますか大問題です。(対中国で関税を掛けるというのとは大きく違います。)


 トランプ流の次の大統領選挙向け「パフォーマンス」なのかもしれません。つまり、米国の労働者=有権者、に向けてのアピールということで、移民対策はトランプ氏の重要政策ですし、実はトランプ氏はMMTもよく理解していて、米ドルに対する信認がある限り、米国の貿易赤字など問題ではないことはよく分かっている、と・・それに米国の失業率は低いのだし・・


 何はともあれ、タリフマン・ショックが大規模な相場下落につながらなかったのはなにより(まだ分かりませんが)ですが、その理由としてはおそらく、


1.このところ出て来る米国の経済指標はまだら模様ですが、まだ企業業績が決定的に悪化するという兆候はない。

2.FRBが次の行動として利下げをしそうな情勢であること。


が大きいものと思います。


 今後を見通しますと、米国企業の業績悪化が今の楽観的な見方を打ち砕くような悪化を見せたときには、米国株が下落することがあり得る、という状況がずっと続くわけですから、相場下落懸念はなかなか消えそうにありません。


 米中摩擦の悪影響で世界景気が鈍化しそう(と言うか、もうそうなっている)だといことでの株価下落を昨年クリスマスにかけて経験したわけで、そのせい(おかげ?)でFRBがハト派化して株価の回復につながった、という流れです。しかし、相場が本格回復するのは、企業業績の悪化を一応織り込んでから、というのが普通だろう、という見方はまさに普通だと思っておく必要もあるのでしょう。

 

日本株は、と言いますと、需給の悪い分、米国株が下がるたびに米国株以上に下落して、今や日経平均とNYダウの「サヤ」が4千円をはるかに超えるようになってしまいました。(日経平均の計算上のPBRは1に近づいてしまいました。ROEはそこそこ高い水準なのに、です。)


 先行き懸念が強いということで出来高も盛り上がらず、1日の出来高が2兆円を割り込む日が多くなっています。長期視点の投資家から見れば特に心配な状況ではないのかもしれませんが、買いにせよ売りにせよ取るポジションは控えめに、トレードの回転は速めに、という人が増えるのは致し方ないところなのでしょう。


従業員と株主

 顧客、従業員、株主、国、地域社会、などは企業の「ステークホルダー」と呼ばれます。(個人的には、株主はシェアホルダー=企業のオーナー)であって、ステークホルダーと呼ぶのは不適切、と思っているのですが。)


 それぞれが利害関係を企業と持っている、という意味でしょう。


 利害、ということでは、企業と株主、経営者、とか、顧客、とか、社会、とかの関係についてはよく語られるのですが、私の見るところ、従業員と株主の関係(利害関係)についてはあまり聞かないようです。


 企業は従業員の働きによって「付加価値」を獲得して、それを従業員、株主、国などに「配分」しています。従業員に対しては主に給料、株主には配当金、国に対しては税金を配分している、というわけです。


 国への配分は税制で決まっているわけですが、従業員への配分については別に決まりはなく(最低賃金というものはありますが)、おそらく「付加価値に応じて世間水準を見ながら決まっている」というのが一般的でしょう。(会社と労働側の取り決めで、付加価値のxx%といった具合にきちんと決めている企業もあるかもしれませんが。)


 企業が稼ぎ出した付加価値を従業員数で割った数字を「労働生産性」と呼びます。(計算法はいろいろあるそうです。)この企業の労働生産性は年〇〇万円、といった具合です。


 従業員一人当たり付加価値(労働生産性)のうち給料として従業員に配分される割合を「労働分配率」と言います。付加価値が1000万円で給料が500万円なら、労働分配率は50%です。


 さて、労働分配率は何%くらいが妥当なのだろう?と考えてみます。労働分配率が0%では従業員が働くはずもありませんし、100%では企業が立ち行きませんから、妥当値は0%~100%の間にある、ことになります。


 わが国の統計では、労働分配率はだいたい40%~60%とのことです。まあ常識的な線だな、という印象でしょう。


 生産性が一定なら、労働分配率が高いほど従業員の給料は高いことになりますが、この辺りが面白いところでして、現実は逆で、給料の高い会社はだいたいにおいて労働分配率が低いのです。


 従業員は自分が働くのに必要な「資本」を負担しない、つまり事業活動におけるリスクを負担しません。(個人事業主になって、自分でラーメン店を経営する、というのと勤め人として給料をもらう、というのとの違いを考えればすぐ分かります。)


ということは、十分高い給料がもらえるのであれば、労働分配率は低くてもかまわない、ということになります。


 労働分配率が低ければ、株主への配分が増えますから株価は上昇します。


 つまり、労働分配率が低いのに高い給料を支払える企業が増えれば日本の株価はもっと上がる、ということになります。


 十分に高い(というより驚くほど高い)給料を支払っている会社の典型は、(ときどき番組の中で話すのですが)キーエンス、とかTBSとか三菱商事などです。


 TBSや三菱商事はちょっと特殊ですが、キーエンスは純粋に強い競争力と収益力をもったビジネスモデルを確立することで高い付加価値を稼いでいる会社、ということになります。


 おそらく、日経平均の採用銘柄のうちの3社に1社か、4社に1社くらいが、将来キーエンスのような会社になる、と期待できるようになったら、日経平均はかるく5万円を超えるようになるでしょう。そういう姿を見たいものです。


令和元年6月7日

証券アナリスト

松下律

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