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この夏のオススメ本を1冊

鈴木 一之

2020/08/04 07:45

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8月になりました。紫いろのアサガオと照りつける夏の日差し、真っ青な空、入道雲、セミの声がすぐに浮かびます。

炎天下のプールの水しぶき、かき氷の冷たさ、スイカの甘さ、とうもろこしの塩味、蚊取り線香の香り、激しい雷雨。夏は五感を刺激します。各駅停車の鈍行列車に乗って、緑濃き山奥や湖をどこまでも旅してみたくなります。

夏は読書の季節でもあります。感想文を書くために苦労して課題図書を読んだ記憶もよみがえります。図書館の涼しさも夏の魅力のひとつですね。

「ステイホーム」が求められる今年の夏は、読書にはもってこいの時間帯ではないでしょうか。ここで私のオススメ本をご紹介します。

☆「解錠師」
スティーヴ・ハミルトン著、ハヤカワ・ミステリ文庫(1,034円)

2012年暮れに日本で翻訳が出版され、ベストセラーになったのでご存知の方も多いと思います。ジャンルはミステリーとなっていますが謎解きとは無縁です。ひとりの少年の回顧録の形をとった成長の記録です。

舞台はニューヨークとロサンゼルス。夏の物語です。今は青年となった主人公が少年時代を思い出してつづってゆきます。

少年にはいくつもの他人にはない特徴があります。まず言葉がしゃべれません。幼いころの大きな出来事で言葉を発することができなくなりました。

したがって内省的な性格にならざるを得ず、その延長として絵を描く才能と、錠前を開ける緻密な技術に秀でています。

回顧録なので物語はきわめて静かに進行します。しかし読んでいるこちら側は、作者の描き出す物語の世界にぐいぐいと引き込まれます。登場人物はさほど多くないのですが、人物の造形がとても秀逸で、ひとりひとりの描写がきわめて繊細です。心の中のやりとりが目に見えるのではないかと思えるほどの臨場感があります。

本作品は世界中の数々のミステリ文学賞を受賞しました。「このミステリーがすごい!」2013年海外編の第1位にも輝いています。

夏の鈍行列車の車中や公園の木陰のベンチ、あるいは午後4時の海辺のカウンターバーでビールでも飲みながら、ぜひご一読ください。思い出の夏となるはずです。
(スズカズ)